N98『星空までは何マイル?』8月期リアクション ■No.0815B「オーディーンの槍」 GM:星空めてお 担当マスター:いちごいちえ  このリアクションは選択肢150を選んだ人の 内、一部の方に送られています。 ─────────────────────── 「ユーゴー! こ、この馬鹿っ」  チャーリィ・フォックストロット艦長が珍しく 人前で怒声をあげる。  『プレステル・ヨハン』号への名乗り上げをさせ ろと息巻いていた少年は、あろう事か到着のこの 瞬間眠りこけていたのだった。 「艦長、回線オープンしました」  少しためらいがちに蒼空寺真理(そうくうじ・ まり)が呼びかける。チャーリィが仕方ないといっ た風に口を開く。 「こちらは『グングニル』艦長、チャーリィ・フォッ クストロット。次席ストラテゴ暗殺未遂のキャプ テン キャット捕獲のため『プレステル・ヨハン』 号を援護する」  手短にこちらの正体を伝える。 「ありがたい! 王子と国王のネイバーが海賊船に いる! 彼らの救出を頼む!」 「了解。まずはこちらの機関士をエンジンの修理に 当たらせる。接舷許可願う」  その間も、海賊船からばらまかれた大量のミサ イルなどは、神道寺龍威(じんどうじ・りゅうい) が装備された小口径レーザーで破壊していく。 「ユーゴー、やっぱお前はかっこいいよ」  まだ眠っている彼をちら、と見て軽い口振りで 呟くが、次の瞬間には龍威の目は船外の目標物に 固定し直されていた。  有須川ミチル(ありすがわ・−)が『グングニ ル』と『プレステル・ヨハン』号を静かにドッキ ングさせた。エングラム・インターフェースを頼 らない、細やかな神経の必要な操船を顔色一つ変 えずにこなしていく。というよりも、その顔のほ とんどを覆うサングラスが表情を隠しているとも いえるのだが。 「ヴァラムさん、ポーター。お願いします」 「ああ」 「『グングニル』をぼろ船にしても俺がなおしてや るからな。そのかわり、戻ってこいよ!」 「ひ〜、またそんな不安なことをぉ」  チャーリィに促され、『プレステル・ヨハン』号 にそれぞれ愛用のツールを携えて行くカトラ・ ヴァラムとニコラス・ポーター。だが、ニコラス の縁起の悪い捨て台詞に、へなちょこドクター鈴 木林が情けない声をあげる。  『プレステル・ヨハン』号や周囲の船との通信を 切ると、チャーリィの凛とした声が艦橋に響きわ たる。 「『グングニル』発進!」   @    @    @  核融合エンジンの海賊たちのスタートがいくら 早かったといえども、反物質船の対消滅機関の高 加速のもとでは、追撃されるのは時間の問題だっ た。 「減速する! 我慢して!」  有須川が叫ぶと、ほとんど同時に艦内の空気が 全員の体を圧迫しはじめる。 (た、タイムラグなしかよ!)  舌をかみそうになるのをこらえながら、アス ミ・キラーコアラがレティセントをきつく抱え込 んだ。  突入メンバーは、神道寺龍威、ユーゴー・ウィ ゴー、カイン・アールフィールド、アスミ・キラー コアラの4人。接舷すると同時に、それぞれの得 物を持って、バンツー級の海賊船の旗艦(?)に 乗り込んでいった。 「人質は王子だけじゃない。国王のネイバーもい る。作戦の目標は2人の救出が最優先だ……けど」  チャーリィが突入部隊に指示を出している。 「死んで帰って来る奴は、命令違反とみなす」 『きついでござるなぁ』  バンツー級内で展開しているであろう突入部隊 のカインの独り言と、そのまわりの笑い声がコム ニーを通じて聞こえてきた。 (大丈夫、みんなならきっとできるから! だから わたしも……)  自分のナビゲーションで彼らを無事に帰還させ ようと、カスタムフェイドラ「kuronecoちゃん」 と共に船内のハッキングに精を出す真理だった。   @    @    @ 《ドクター! カインがやられちまった! 出番だ ぜ!》  アスミの叫びが「ポゼッショナー」を通して鈴 木林の頭に響く。 《ちょっと、アスミぃ、自分で出来るでしょ……う、 うひゃあ〜! は早く、早く止血してよ〜》  席に着いたまま、はたはたと手を動かして、見 えない相手に指示する鈴木林。  実は、外科医としてもなかなかの腕前なのだが、 血が苦手という女性らしい部分は、なぜか「やっ ぱりへなちょこ」という評価になってしまうよう だ。 《こ、こうか?……血、やっぱ、だめかも……》  喧嘩慣れしているはずのアスミの顔が、カイン の止血をしている内、複雑な表情になっていく。一 言で言うなら「へなちょこ」な表情か。 《しっかりして、もう動かしても大丈夫みたいね》  アスミが、カインを抱え上げて歩き出す。  その横では、ショック状態からやっと立ち直っ た王子をエスコートする龍威の姿があった。  アスミがカインを先に『グングニル』に避難さ せてくると、鈴木林は早速手術に取りかかった。   @   @   @  突入部隊のSGたちの捜索にも関わらず、バン ツー級内にサヤ・スターリットの姿はなかった。 「サヤを探してください!」 「落ち着け!……その子はどこに行ったんだ?」  少しだけ混乱の残る王子を龍威が一喝する。  一瞬身を震わせて、王子は思い出すようにぽつ りぽつりと話し出した。 「サヤは、僕と一緒に……この船に乗せられてす ぐ、たった一人で……ポッドに乗せられて……僕 はサヤを……守れなかった……お願いです! み なさん、サヤを探してください! 僕もお手伝い します!」  船内を捜していたユーゴーが首を振って龍威に 合流してきた。 「だめだ、どこにもいない」 「王子の話では、宇宙に流されたらしい」  龍威が艦内に連絡を取ろうとコムニーに語りか けた時だった。嬉しいニュースは意外な場所から もたらされた。  真理の弾んだ声がすべてを物語っていた。 『リュイ! 王子様に伝えて! サヤ・スターリッ ト嬢の身柄は本艦にて保護していますって!』  3人は、ナビゲーターの意外な言葉に思わず顔 を見合わせた。   @    @    @  『グングニル』は、図らずも王子とその友人、サ ヤ・スターリットの再会の舞台となった。  カウンセラーでもある鈴木林と2人の子供たち の会話を聞いている間も、『グングニル』はその俊 足で、サヤと王子を彼らの仲間のもとへと届けるべ く『プレステル・ヨハン』号の行方を追っていた。  チャーリィ艦長が、鈴木林たちの傍らにやって きて問いかける。 「王子。いいだろうか?」 「はい。なんでしょうか?」  傍らの友人を気遣っていた王子だが艦長へと向 き直る。 「『プレステル・ヨハン』号の修理は、中立のL5 よりも、フェデレーションの管理宙域である火星 の方が安全に作業が行えると思われる。あなた方 さえよければ、私たちは火星まで護衛させていた だくつもりだ」  薄化粧をした美青年と見えなくもない女性艦長 と王子の目が、まっすぐにぶつかった。 「その申し出は大変嬉しいのですが、僕は地球に行 かなくてはなりません。……ヴァンダーベッケン を取り戻して、星屑と地球をつなぐ事こそが僕の 努め。……星屑と呼ばれるあなた方に、僕が出来 うる最大の恩返しだと思うのです。皆さんのご厚 意は本当にありがたく思います。けれど……」  すみません、と深々と頭を下げる王子に、チャー リィ艦長は軽く手を振った。 「いや、それならいいんだ。地球に行くならL5で なくては不便だろう。どのみち、私たちはあなた 方を安全な場所まで守るのが任務だ」   @    @   @  L5コロニーのコートダジュールへ無事に『プ レステル・ヨハン』号と王子たちを送り届け、宙 港のドックでの点検作業を終えると、『グングニ ル』は火星へ向けて飛び立った。  有須川がビアンキ代表へ向けて通信文を送り出 した。アタランテ改級貸与承認への返礼と謝罪、そ してフェデレーションの盟友たるプレステル公国 の王子と国王のネイバーの救出の事後報告だ。  一仕事終わったというリラックスした雰囲気が メンバーを包んでいた。  だが、思いがけないニュースが『グングニル』に 飛び込んできた。 「…………」  火星からの返信を読んだ全員に言葉はなかった。  自分たちが出発してきたセレス基地が、どこへ ともなく消滅してしまったというのだ。 ───────────────────────