<オープニング>
秋の収穫期も大分終わりに近づき、夜那瀬の村々は冬支度の準備に追われている。
そんな中で、秋の収穫に感謝し冬を滞りなく過ごせることを祈って、ある祭りを行なう村がある。
祭りの名は天婦羅祭り。
秋に収穫された茄子や甘藷、南瓜や人参、その他多くの食材が持ち寄られ、一斉に揚げて皆で食すのである。夜那瀬の秋の風物詩の一つであるこの祭りに、殲鬼が乱入する予知を迦煉は得た。
「まったく、無事国の百識祭が終わり少しは殲鬼共も為りを潜めるかと思っていたのだがな‥‥」
生憎、そう都合のいいように事は運ばないらしい。
「村では、天婦羅職人たちが揚げた天婦羅を集った人々が食すのだが、この天婦羅を食べて幸せな気持ちになる村人が気に食わない殲鬼件は、天婦羅に毒を盛って人々の腹痛を催させるつもりらしい」
天婦羅職人の誰かが毒を盛るのかというと、そうではないかもしれないと迦煉は補足説明を行なった。祭りが開かれる村の広場では、多くの人々が訪れているため、そのうちの誰かが天婦羅自体に毒を盛るか、それともタレに仕込むかが分からないのである。無論職人の中にいるという可能性も捨てきれない。つまり村人全員が容疑者なのだ。
「まぁ、これ自体を飲んで死ぬほどの毒ではないらしいのだが、複数の人間が天婦羅を食べて腹痛を催せば、その場にいる人間たちは自分が食した天婦羅も何か異常があるのではないかと疑心暗鬼にかられるだろう。それを件は狙っているのだ」
村人たちが猜疑心にかられ職人につめかけたその時を狙って件は動き出すだろう。それまではそう簡単にボロは出さないはずである。毒を盛る者を探して、それ自体を阻止するのが一番だが最悪村人の命さえ護れればそれでいいと迦煉は言った。
「ただ、毒を盛られれば祭りはそこで終ってしまうだろう。皆、続けるつもりなどなくなってしまうだろうからな。実は、祭りの後半で天婦羅の達人決定戦という催しものがあってな、だれが天婦羅を揚げるのが一番上手いのかを決定するのだ。できればこれも無事に行なえるように計らってもらえると助かるな」
この催しものには勿論サムライは、審査役、もしくは天婦羅職人として参加することができる。祭りを全て成功させるには、件の企みを未然に防ぐことが必要だろう。 |
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